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2020.05.14 | 河内 秀子

今こそ見たい映画「精神0」が描く、”共に生きる”こと

〔仮設の映画館〕にて公開中、ほか全国の映画館で順次公開

想田和弘監督の新作映画「精神0(ゼロ)」が、5月22日まで「仮設の映画館」で配信されています。

2020年2月22日、ベルリン国際映画祭で、「精神0」はインターナショナル・プレミア上映を迎えました。ぎっしりと埋まった映画館。隣に座った人の心にも、じんわりと感動が広がった瞬間がわかるような、静かに止まるエンディング。その後、世界がこのような状況になるとは、あの時映画館にいた人たちは、誰も予測していなかったと思います。

「精神0」は、2008年にやはりベルリン国際映画祭のフォーラム部門で上映された「精神」の続編。「精神」の主人公である岡山の精神科診療所「こらーる岡山」の所長、山本昌知先生が診療所を引退し、妻、芳子さんと暮らしていく様子を描くドキュメンタリー映画です。映画は、まず、山本先生の引退から始まります。次々と診療所を訪れ、別れを惜しむ人たちの話に、じっと耳を傾ける山本先生。

(C)2020 Laboratory X, Inc

1960年代、精神科の閉鎖病棟に疑問を感じた山本先生は、患者と話し合っていくことで、患者と病院の相互の信頼関係を作り、病棟から鍵を外すにいたりました。まずは患者自身がどうしたいか。全てはそこから。自分ができるのは、共に生きていこうと、寄り添うことだけ。人が生きるためには、成長するためには、その人と共にいる人が必要だと、それを、山本先生は「ひと薬(ぐすり)」と表現しています。

診療所を辞めた山本先生は、ゆっくりと認知症が進んでいく妻と二人暮らしをしています。想田監督は、その二人の姿を、ハンディ・カメラでじっくり追いながら、しかし人に対する尊厳を忘れることなく、捉(とら)えていきます。その視線には、山本先生の患者に対する姿勢に通じるものが感じられます。

(C)2020 Laboratory X, Inc

ベルリン映画祭で「精神0」は、「エキュメニカル審査員賞」を受賞しました。プロテスタントとカトリック教会が共につくる国際映画団体から選出された6人の審査委員が選ぶこの賞は、観客に精神的、人間的、社会的価値観に対しての観客の感性を鋭敏にさせるような作品を作る映画人に与えられるもの。「精神0」は、一見とてもシンプルだが、審査員の心を深く揺さぶったと、高く評価されています。

「人間の尊厳と共感というものが、素晴らしいかたちで描かれているこの映画は、社会的かつ経済的な成功の圧力に常にさらされる社会の中で、人を世話する、ということの価値についての、感動的な作品だ」

山本先生は患者さんとの言葉の中で、過去のことや未来のことに頭を悩ませず、「今を生きる」ということについて、語っています。そして、「ゼロの状態に身を置こう」と。ゼロとは、「死ぬ」ということ。ゼロの場所から考えれば、感謝できる、ありがたいことが増える。

(C)2020 Laboratory X, Inc

目に見えないウイルスは、将来への不安を煽(あお)り、また、感染症を防ぐための接触制限は、他人とのコミュニケーションを遮断し、人の心を蝕(むしば)みます。日々の生活のリズムが壊れ、特に、高齢者や一人暮らしの方、もちろん家族と暮らしている人にとっても、大きなストレスがかかっています。パンデミックが始まってから、ドイツの救急に寄せられる通報は、実は、直接ウイルスに関わるものだけでなく、心のバランスを崩した人たちからのものも多いと言います。苦しんでいる人が目の前にいても、抱きしめてあげることも、肩を叩くことすら許されない状況は、救急隊員自身の心にも、小さな刺を残しているようです。 

コロナ禍の今だからこそ、改めてその価値を確認したい「人と人との関わり」。共に生き、共に老いるということについて、そして、死ということについて、考えたくなる映画、「精神0」。全国の映画館が休館に追い込まれ、経済的に深刻な状況にあることから、想田和弘監督と配給会社・東風の呼びかけで生まれた「仮設の映画館」で、上映が行われています。

(C)Temporary Cinema

「仮設の映画館」のアイデア自体も、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために休業を余儀なくされてしまっている日本中の映画館を、配給会社、劇場、制作側、そして観客ー映画が好きなみんなで支え合おう、と生まれたものです。

まずは、「仮設の映画館」で楽しんで。そして、また誰かと一緒に、同じく空間に座って、同じスクリーンを見ることができる映画館が再開したら、ぜひ、そこにも足を運んで見に行って欲しい映画です。

※仮設の映画館は国内のみで鑑賞可能。

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河内 秀子
河内 秀子(かわち ひでこ) 地球リポーター

ドイツ ベルリン在住 東京出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中から、ライター活動を始める。 現在雑誌『 Pen』や『 料理通信』『 Young Germany』『#casa』などでもベルリンやドイツの情報を発信。テレビのコーディネートも多数。http://www.berlinbau.net/

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