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2021.02.01 | 河内 秀子

キーワードは連帯 欧州で能動的に「ZeroCovid」「NoCovid」をめざすムーブメント

2021年1月19日、ドイツ、アンゲラ・メルケル首相と16の州首相たちが集まり、現行のロックダウン措置を2月14日まで延長することに決めました。

スーパーマーケットの前には、買い物の際には医療用のマスクを着用するように、という看板が

接触制限が続くほか、公共交通機関や買い物の際の医療マスク(サージカルマスク、FFP2マスク、KN95/N95マスク)着用を義務付け。お店は、食品や生活必需品を売る店以外は閉店、飲食店はテイクアウトのみ。ミュージアムや劇場などの文化施設も閉館が続いています。

現在閉鎖中のギャラリーが、そのスペースを生かして短時間で結果がわかる抗原検査所になっている

感染者数は多少減少傾向を見せているものの、亡くなっている方の数は毎日800人前後といまだ多く、集中・救急医療のためのドイツ学際協会(DIVI)は、集中治療室がいまだひっ迫していると語ります。終わりの見えない状況に、市民にも疲弊が見えます。

こうした事態を打開するために新たな動きが起こり、大きな話題と議論を呼んでいます。

まず、1月12日に呼びかけがスタートした「ZeroCovid」。そして、新たな予防措置の話し合いの前に、政治家たちに提案された「No Covid 戦略」です。

No Covidの戦略ペーパーはこちらから。

どちらも、現時点でドイツが策定するロックダウンの緩和基準「人口10万人あたりの1週間の新規感染者数が50まで下がること」を大幅に引き下げ、欧州全体で、ゼロに近く、できる限りなくしてからの緩和を提案しています。

背景には、感染力がより高いコロナ変異株の流入で、第一波の時と同様な措置では困難が予想されること。また、発症や重症化を防ぐと言われるワクチンも、大多数の市民に行き渡って集団免疫を獲得するまでには、あと数年かかる見通しですし、また「他人に感染させることを予防する」効果はまだ証明されていないことなどがあります。

しかし、コロナ対策と経済活動を両立させる「ウィズコロナ」が難しいとしても、より厳しいロックダウンをした場合の経済への打撃は? ただでさえコロナ疲れしている心への影響は? そもそも実現可能なのでしょうか?

駅の入り口前など人通りが多い場所の道路には、ドイツ語、英語、トルコ語、アラビア語でマスク着用義務が呼びかけられている

では「No Covid」、「ZeroCovid」の呼びかけ、それぞれその概要を見てみましょう。

「ZeroCovid」は、こう呼びかけます。

「人々の健康を守り、パンデミックと闘うことは、民主的な権利や法治国家を守ることとは矛盾しない。健康を守らない民主主義など、無意味で冷笑的なものだ。また民主主義を伴わない健康の保護は、権威主義国家につながる。民主主義と人々の健康の保護、両者の統一こそが、連帯に基づくコロナゼロ(ZeroCovid)戦略の決定的な鍵となる」

感染者数ゼロを目指すために、迅速かつ同時に、不要不急ではない仕事以外はストップする一方、ステイホームが難しい人、取り残される人を出さない支援、医療や介護分野拡大のための賃金アップ、ワクチンを人類全体の共有財産とするなどの提案が並びます。そして、コロナ禍で拡大する貧富の差にも目を向け、欧州全体でのコロナ連帯税を高額所得・企業利益・金融取引に求めるなどの、加速する資本主義への批判も見られます。

発起人には医療・介護関係者、政治、経済や哲学などの学者、障害者の権利アクティビスト、ジャーナリストやアーティストなどが名を連ねます。

現在全てのイベント開催がキャンセルされている、マックス・シュメリング・ハレの横にも、短時間でできる抗原検査所が登場

「No Covid」は、主に学者からの提案です。起草者は、独ヘルムホルツ感染症研究センターのウイルス学者たちが中心で、その主軸は3つあります。

・発生率が10になるまでロックダウンをして、さらに、その後ゼロへと減少させる。
・感染者数、発生率が下がったところを「グリーンゾーン」とし、ここではこれまでの生活を可能にする。グリーンゾーン以外の地域との移動には厳しい制限、検査や自主隔離を行う。
・新規の感染者が発生した場合は、再び局地的な感染拡大防止対策を導入する。

起草者はロックダウン措置に関して昨春、「第一波の際に行われた対策措置で十分だが、より厳しく守ってもらうこと。密を避けるためにプライベートでの接触制限だけでなく、さらなるリモートワークを推奨するべき」とインタビューなどで答えています。

さらに、経済への影響を最小限に抑えるためには、逆に短期間に厳格なロックダウンを行った方がよいとオーストリアやニュージーランドなどの具体例を挙げ、感染リスクが低い製造業などの分野では、適切な衛生保護を提案しながらも、生産を継続できるようにする提案もしています。また、現在、人命の保護という観点からロックダウンによって基本的権利の侵害がやむなく行われているが、これも短期集中型で、一刻も早く解消されるべきであるとしています。

マスク関連のものもいろいろ売り出されている。クッキーまでマスク着用?!

私がこの2つの戦略について、様々な議論や提案を聞いて個人的にとても良いと思った点は、「発想の転換」でした。いま、市民はとても受け身です。政府の決断をジリジリと待ち、店を開けたり閉めたり、結局ずるずると緩い措置が続くのに「また延長か」「ベッドの数は足りるのか」「国の支援予算にも限界がある」とヤキモキ。しかし「ZeroCovid」や「No Covid」は、連帯を呼びかけます。一致団結して同じ目標に向かう。誰しもが、このゴールを実現するためのキーパーソンです。

現在のように日程は決められていませんが、社会全体での共通する達成目標があるので、やっていることは同じようであっても、心理的なプレッシャーが全く違います。「No Covid」の場合は特に、具体的に「グリーンゾーン」、日常が戻ってくるというご褒美が目の前にあるので、自分から働きかけてコロナと闘おう! という力が湧いてきます。

メルケル首相もかなり肩入れしているとも伝えられる「No Covid戦略」。どれだけ多くの人の気持ちを1つにできるかが、収束への鍵となりそうです。

ロックダウン中も、散歩やランニングなど、新鮮な空気の中で体を動かすことは推奨されている。天気がいい日には、ソーシャルディスタンスを取りながら、日向ぼっこをする人の姿も多く見られる

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河内 秀子
河内 秀子(かわち ひでこ) 地球リポーター

ドイツ ベルリン在住 東京出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中から、ライター活動を始める。 現在雑誌『 Pen』や『 料理通信』『 Young Germany』『#casa』などでもベルリンやドイツの情報を発信。テレビのコーディネートも多数。http://www.berlinbau.net/

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