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2025.12.22 | ささ とも

記憶に擬態――植物の不思議な力を知れば地球を守るヒントが見えてくる

今年も国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)が11月に開催されました。開催国がブラジルだったこともあり、アマゾンの熱帯雨林で大規模な伐採がいまだに続いていることが注目されました。草木などの植物は地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収し、私たち人間やほかの動物の呼吸に必要な酸素をつくります。アマゾンの熱帯雨林は「地球の肺」と呼ばれるほど生命にとって貴重な存在です。


アマゾンの熱帯雨林 Jay(Photos from within the Amazon Rainforest in Tena, Ecuador)

環境ジャーナリストのゾーイ・シュランガーは長年にわたり、そうした環境破壊や洪水、森林火災などの悲惨な出来事を追いかけているうちに不安に捉われすぎて、感情が麻痺していることに気づきました。危機感を覚えたゾーイは植物に癒やしを求めます。ただ植物に癒やされるだけでなく、ジャーナリスト魂を発揮して植物の謎を探究し、一冊の本『記憶するチューリップ、譲りあうヒマワリ―植物行動学―』を書き上げました。その謎とは「植物に知性はあるか」です。

日本でも話題を呼んだゾーイ・シュランガーの新著。8月に早川書房から発売された

植物の知性

植物についてまだまだ多くのことがわかっていません。しかし科学の技術的進歩とともに、科学者の好奇心と努力によって少しずつ解明されてきました。ゾーイは植物の知性に関連する文献を調べたり、直接植物学者に話を聞いたりして、植物の不思議な力をひとつずつ探っていきます。

まず目を向けたのが、植物はコミュニケーションを行うこと。ある木や草は葉が昆虫や動物にかじられると葉の成分を変えて食べられないようにします。しかもその化学物質を大気中に放出して周囲の木や草に攻撃者がいることを伝えるというのです。ヤマヨモギはケムシに食べられると化学物質を放出し、それを近くに生えるタバコが解読し、ケムシの攻撃が始まるとケムシを食べる捕食者を呼び寄せることが明らかになっています。植物は化学物質を大気中に放出することで、周囲の植物だけでなくほかの生物にまでメッセージを伝えているのです。

植物は昆虫などの生物と会話し、互いに利用しています。トウモロコシはイモムシに食べられると、そのイモムシの唾液から種を特定して、ある種のハチを呼ぶ化学物質を放出します。そのハチはイモムシに卵を産み、ハチの幼虫が卵からかえるとイモムシを食べ、繭を作ってイモムシの外皮を身にまといます。そのトゲはトウモロコシを守ってくれるのです。

ナサ・ポイソニアナ fungipace(2025) iNaturalistより取得 CC BY-NC 4.0

記憶する植物もあります。アンデス山脈で星型の花を咲かせるナサ・ポイソニアナは、送粉者のマルハナバチが訪れる間隔を記憶し、次にやってくる時期を予測して花粉をつけたおしべを立ててハチを迎えます。

さらに、南米チリには周囲に生えるほかの草木の葉とそっくりに擬態する、ボキラ・トリフォリアータという奇妙なつる植物も発見されています。ほかの植物に擬態できるのはボキラに見る能力があるのか、それとも微生物の感染が関与しているのか、研究者の間で意見がわかれていて、いまも謎に包まれたままです。

ボキラ・トリフォリアータ Hector Montero Melipeuco CC BY-SA 2.0

植物の社会生活

動物の中には、シャチやヒヒなど、家族の群れで協力することは知られていますが、植物も近親を認識して互いがうまく成長できるよう配慮していることが明らかになりつつあります。ヒマワリは密集させて植えると、地上では近くに生えるヒマワリの日陰にならないよう茎を曲げ、地下では隣のヒマワリの根と、栄養の取り合いをしないように、あるいは独占しないように根を伸ばします。

また、地中で植物の根は菌類と共生しています。光合成できない菌類は、炭素を植物からもらい受け、その代わり土壌に含まれるリンや亜鉛などの鉱物を採取して植物に与えます。微生物が活発に活動する根圏と呼ばれる地中の世界では菌類が菌糸を張り巡らせ、植物は根を伸ばして関わり合っているのです。

植物は植物同士や昆虫とコミュニケーションをとり、送粉者のやってくる時期を記録し、周囲の植物とそっくりに擬態し、社会生活を営む。これらを「知性」という言葉で表すことができるかは議論の余地がありますが、植物にはまだ解明されていない、私たちの想像を超える能力が潜んでいることは確かです。

植物に関する知識が増えることで、その重要さを知り、広く社会に受け入れられれば、農地転換という短絡的な利益を追求したアマゾンの森林伐採を食い止めることができるかもしれません。「生物の創造性は生命に本来備わっている」、だから、地球温暖化や環境破壊などの破滅に向かうのではなく、「生命は、機会を与えられれば、道を発見する」とゾーイは語ります。

本書から、地球環境を守るためにわたしたち人間にできることは、生命が生き抜くために備わる能力を奪うのではなく、発揮できる機会をつくることだと再認識させられます。

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ささ とも
ささ とも(ささ とも) 地球リポーター

神奈川県在住。翻訳者、ライター。 2010年からThink the Earthの地球リポーターとして世界のサステナブルなニュースを発信。気候変動・生物多様性・ウェルビーイングなど、さまざまな分野での世界の動きを追っていきます。

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