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地球リポート

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2018.05.30 | 小泉 淳子

お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげる「おてらおやつクラブ」

Think The Earthが昨年より取り組んできたのが、国連の持続可能な開発目標(SDGs=エス・ディー・ジーズ)を教育の場に広めるための教材づくりです。SDGsには2030年までに解決すべき17個の課題が示されており、その課題解決のために、未来をつくる子どもたちが主体的に行動することが重要になってきます。そのためにどう考え、どう動くか、を子どもたち自ら気づくヒントとなる書籍『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(発売:紀伊國屋書店)が生まれることになりました。

本つくりの過程で出合ったのが、「おてらおやつクラブ」です。出合いのきっかけは、昨年11月に築地本願寺で行われた「次世代リーダーズサミット 仏教×SDGs」でした。「誰ひとり取り残さない」をテーマに、仏教がSDGsに掲げられた社会課題を解決するためにできることが討論されたのですが、その登壇者のひとりが「おてらおやつクラブ」を起ち上げた松島靖朗さんだったのです。おてらがおやつ? そのユニークなネーミングもさることながら、仏教とSDGsがどのように結びつくのかを知りたくて、松島さんが住職を務める奈良・安養寺に足を運びました。

全国で800以上のお寺がネットワーク

奈良県磯城郡にある浄土宗のお寺、安養寺

安養寺があるのは京都駅から電車で約1時間、平地が続く奈良ののどかな町です。1633年に開祖した由緒あるお寺ですが、全国900近くの寺社を束ねるNPO法人の事務局があるようには見えません。でもこの小さなお寺から、まさにSDGsの課題解決につながるアイデアが生まれ、各地に広まっていったのです。

その活動が「おてらおやつクラブ」です。可愛らしい名前ですが、お寺に集まっておやつを食べる会ではありません。経済的に苦しいひとり親家庭に、仏様のお供えを「おさがり」として「おすそわけ」しているNPO法人です。

お寺には、地域の人たちや檀家から仏様やご先祖様へのお供えがたくさん寄せられます。その多くはお米や果物、お菓子といった食べ物。仏様への供養が終わると、「おさがり」として、お寺で生活をしている僧や家族が普段の食事にいただいたり、参拝客に茶菓子として出したりしますが、お盆やお彼岸などお供えの多い時期には食べきれずに、おすそわけする先を探すこともあります。果物などの生ものは傷まないうちにジャムにして保存することも。安養寺の住職・松島靖朗(まつしま・せいろう)さんにはそれが悩みでした。もっと有効に利用できないかと感じていましたが、具体策がないまま月日は過ぎていきます。

松島さんが立ち上がる契機となったのが、2013年に大阪市のマンションの一室で母子が遺体で見つかった事件です。幼い子どもの胃袋にはほとんど何も残っておらず、餓死したと見られていました。室内に食べ物はなく、母子餓死事件として大きく報道されたので、記憶に残っている人も多いかもしれません。

「日本で、しかもかつて自分が住んでいた大阪で、餓死する人がいたということに大きな衝撃を受けました。どこか遠い国の話だと思っていた餓死が、自分の生活圏内で起きていた。それほどまでに困窮した生活があることを想像できなかった自分が、腹立たしくもなりました」

お寺には食べ物が余っている。ならばこの事件を知ったものの責任として、ひとり親家庭に食べ物を届けようと、松島さんは動き出します。お寺には食べ物が「ありすぎる」という課題、経済的に困っている家庭には食べ物が「なさすぎる」という課題。この2つの課題をつなげてどちらも解決しよう――そんな欲張りなアイデアが「おてらおやつクラブ」の原点だったのです。

左端が安養寺の住職で「おてらおやつクラブ」代表の松島靖朗さん(写真提供:おてらおやつクラブ)

「見えない貧困」を知ってもらうために

実際に支援活動をしている団体に助言を求めながら、2014年1月、全国のお坊さんに呼びかけるかたちで、「おてらおやつクラブ」はスタートします。宗派を超えて次第に活動の輪が広がり、今では全国で853のお寺が参加するまでなりました。支援する子どもの数は9000人にのぼっています(2018年5月現在)。

「国内に子どもの貧困があるって本当なの? という人も多い。でも、どこの都道府県にも少なからず貧困はあります。日本の貧困は相対的貧困と言われ、見えづらいのが問題なんです。お寺の社会活動を知ってもらうことも大切ですが、『おてらおやつクラブ』を通じて、身近な貧困問題を知ってもらうきっかけになればと思っています」

見えない貧困=相対的貧困とは何でしょうか。世界には住む家もなく、生きていくうえで最低限必要な食料や必需品を買うお金もない人たちがいます。そうした状態を「絶対的貧困」と呼びます。確かに日本には、家がなく路上で暮らすストリートチルドレンや、靴がなく裸足で歩いているような子どもはほとんどいません。

一方、先進国で問題になっているのが「相対的貧困」です。相対的貧困とは、その国の貧困ラインを下回る収入しか得ていない状態のこと。具体的には可処分所得の中央値の半分未満の収入で暮らしている状態を指します。日本の貧困ラインは122万円(平成27年、国民生活基礎調査による)。子どもの約7人に1人が、相対的貧困にあたるとされています。周りの子どもたちに合わせスマホや自転車は持っていても、暮らしに余裕があるわけではありません。見た目には苦しい生活を送っているとはわかりづらいため、日本に貧困がないと思っている人が多いのです。

「子どもたちは社会の未来なのに、一日一食しか食べられない子もいる。子どもをもつ父親としても、子どもの貧困は解決しなければいけない課題だと思っています」

SDGsには目標は定められていますが、具体的に何をすればいいかについては明言されていません。それぞれの国で事情は異なりますし、解決方法はひとつではなく、さまざまなアプローチがあるからです。「おてらおやつクラブ」はお寺らしい方法で、SDGsの目標1である「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」を自ずと実践していました。

後方支援に徹することで参加しやすく

おてらおやつクラブの仕組み(提供:おてらおやつクラブ)

では「おてらおやつクラブ」の仕組みを見てみましょう。
活動に賛同するお寺は、ネットを通じて登録。事務局が地域やお供えの量をもとに、おやつの受け取り先を選定し、お寺とマッチングします。あとはお寺のペースで、仏様にお勤めをした「おさがり」を支援先に発送します。登録に宗派の制限はなく、送る量のノルマもありません。お寺によってお供えの量が異なるため、それぞれのペースで発送しているとのこと。量が少ない場合は、複数のお寺でひとつの団体を支援すればよいのです。

着目したいのは、「おてらおやつクラブ」はあくまで「後方支援」であるということ。困っている家庭に直接おやつを送るのではなく、支援する団体を通じておやつを届けます。

「専門知識のない自分たちが直接現場に行っても、何もできない。そこはプロにお任せして、支援団体の応援団として、お寺ができることをやっていくというスタンスでやっています。日本の貧困の問題は、お母さんたちが孤立してしまうこと。だから、相談のできる支援団体とのつながりをつくってあげるのが大事だと感じています。また、後方支援に徹することで、お寺にとっても参加する敷居が低くなるメリットもあります」

おすそわけには手書きのメッセージを添えて(写真提供:おてらおやつクラブ)

お菓子を食べたことがない子どもたち

「おてらおやつクラブ」の支援先は子ども食堂や児童養護施設、社会福祉協議会など350以上にのぼっています。実際に、支援は子どもたちにどのように届いているのでしょうか。

「本当に助かっています。おやつには魔法の力があるんです」と語ってくれたのは、東京のNPO法人キッズドアの理事長・渡辺由美子さん。キッズドアは、恵まれない家庭の子どもたちに無料の学習支援を行っている団体で、相対的貧困に苦しむ子どもたちがいることを日々実感していると言います。

「日本の社会には『同調圧力』があって、人と違うものを差別しがちです。だから見た目で貧困家庭だと思われないように、洋服や持ち物に関して、みんなものすごく努力をしている。そうしないと友だち関係が築けないからです。そうなると、削られるのが食費なんですよね。日々の食事もつましいのだから、ましてやお菓子なんて食べたことがない子どもたちも少なくありません。だから子どもたちはお菓子を見ると、とてもテンションがあがりますよ」

キッズドアが開催する無料の学習会(写真提供:キッズドア)

キッズドア理事長の渡辺由美子さん

キッズドアでは、地域の行政と連携してひとり親家庭など経済的に恵まれない家庭の、おもに中学生を対象に放課後の居場所型学習会も運営しています。そこでは食事も出しているため、「おさがり」には随分と助けられているといいます。

「ひとり親家庭では、母親が昼も夜も忙しく働いているため、家ではずっとひとりで食事をしている子も多い。3食コンビニという子もいます。だから、みんなで食べることだけでも嬉しいという声も聞きます。そんな子どもたちのためにも食事はできるだけ提供したいのですが、その費用を捻出するのは大変で、支援がなければ成り立ちません。とてもありがたいです」

キッズドアが学習会を開いているのは、家が狭く勉強机すらない、保護者がとても忙しいので勉強を見てもらえないうえ、経済的に塾に通うこともできないなど、勉強する環境にない子どもたちに将来のチャンスを与えるためですが、もうひとつ意義があると、渡辺さんは言います。

「それは、家庭とつながりをつくることです。子どもたちが学習会に顔を見せていると、困ったときの最後の砦になれる。たとえば、お母さんが風邪を引いていて働けないから来月はお金がない、どうしよう、といったときに相談に乗ることができるのです」

松島さんも懸念していたように、ひとり親家庭のお母さんたちが孤立しないよう、支援団体とのつながりを築くのが大切であることがわかります。「おてらおやつクラブ」のおやつを目当てに子どもたちが学習会に顔を見せる。後方支援がしっかりと実を結んでいました。

お寺から「逃げた」からこそ見つかった

子どもたちに手を差し伸べる大きなイメージをロゴに(提供:おてらおやつクラブ)

実は松島さん、お坊さんになるのがイヤで「逃げ出した」過去があります。安養寺は松島さんの母方の実家。松島さんのご両親は大阪で洋装店を営んでいましたが、住職だった祖父の希望もあり、小学校にあがるタイミングで奈良の実家に戻ることに。後にご両親は離婚、松島さんも母子家庭で育ちました。松島さんがひとり親家庭の支援に目が向いたのは、人ごとではない想いもあったからだと言います。

お寺で育てば跡継ぎを期待されるのは自然の流れです。気づいたら袈裟を着ていたものの、周囲から「お寺の子だからしっかりしなさい」と言われるが苦痛だったそう。浄土宗の宗門高校に入学したものの、このままでは本当にお坊さんになってしまうと、なんと2週間で退学! 

「15歳のぼくがこれからどう生きようかと考えたときに、普通の人生を生きたい、そう思ったんですよね。お寺という特殊な環境から逃れたい。普通の会社に入って、普通の生活をしたいって。もっと早くに気づけばよかったのですが、高校に入ってから気づいたんです」

と笑いながら話してくれました。

その後、別の高校に入学し直し、1996年に東京の大学に進学。ようやくお寺から離れられると、意気揚々と上京しました。ちょうどインターネットの環境が整い始めた時代です。大学卒業後はNTTデータに就職、後にネット運営会社アイスタイルに転職し@cosmeのウェブプロデュースを担当。まさに時代の波に乗った仕事をしていました。

ところが、次第に普通を求めている自分に違和感を覚るようになったそうです。起業ブームも相まって、魅力的な人はみなユニークな生き方をしているのに、なぜ自分は普通を求めていたのかと。自分にしかできないユニークな生き方を考えたら、「そうや、お坊さんや!」とようやく気づいたのです。松島さんは13年間の東京生活に別れをつげ、奈良に戻りました。

でも松島さんにとって、この回り道は決して無駄はなかったのです。日本全国におてらおやつクラブの活動を広げることができたのは、やはりインターネットの力が大きかったと松島さんは言います。活動を始めた当初からネットを活用。ホームページを起ち上げて情報発信し、Facebookで賛同を呼びかけてきました。それもネット企業で働いた経験や人脈があったからこそ。おすそわけと支援団体のマッチングも、CRM(顧客管理)ソフトウエアを駆使して効率化を図っています。

「ネットは人と人をつなぐメディア。お寺は仏様と人をつなぐメディアであると考えた時、いろんなアイデアが浮かんできました。自分としては東京で働いた経験がつながっているんです。今は坊さんっていいな、って思っています」

どんな仏になりたいのかを自らに問う

「おてらおやつクラブ」が通常行うのは後方支援ですが、最近はネットを通じて連絡してきたお母さんに、緊急の直接支援を行うことも増えているそうです。昼間は働いているため相談に行く時間が取れなかったり、近くに支援団体がなかったり、追い詰められているひとり親家庭もあります。子どもがいじめられることを恐れ、経済状況を近所に知られたくないという人もいます。そうしたお母さんたちを孤立させないため、苦しみに耳を傾け、寄り添い、見守っていることを伝えるためです。

「直接支援をしたお母さんたちからは、どこかのお寺のお坊さんたちが見守ってくれているのがありがたいという声をいただきます。『見守る』というのは、私たち僧侶が常に口にしていることと重なります。ご先祖様や仏様が見守ってくださっていますよ、と。それと同じことをお母さんたちが言ってくださるのは、自分たちが信仰を深める励みにもなります」

「もらえば幸せ あげればもっと幸せ」おやつクラブの心を伝えるためのポスター

最近では私たちとお寺との付き合いはすっかり縁遠くなってしまいましたが、それでも、無意識のうちに仏様をありがたく思う気持ちがどこかにあるのかもしれません。顔が見えなくても、仏様のいるお寺の支援なら安心できる、そんな気持ちをお母さんたちが抱いているとしたら、もっともっとお寺としてできることがあるのではないか。決して今の活動に満足せず、課題解決のために前を向いていることが松島さんの言葉の端々から伺えます。

そして「おてらおやつクラブ」の活動は、宗教者の松島さんにとって修行でもあるといいます。

「みなさんユニークな活動と評価してくださるのですが、決してそんなことはなくて、仏教徒としての心構え、すなわち『篤(あつ)く三宝を敬え』の実践そのものなんです」

「篤く三宝を敬え」とは、聖徳太子の十七条憲法に出てくる仏教の心得で、三宝とは仏(仏陀)と法(仏の教え)と僧(サンガ=同じ信仰をもった人の集まり)を指します。その三宝を敬うことが、仏教徒の務めとされています。

「仏教の教えでは、人間には限界がある。だから仏が救ってくれるんですね。そして仏になるために、みな修行をしているのです。おてらおやつクラブの活動が、『誰ひとり取り残さない』というSDGsの目標を本当に達成できるかはわかりません。でもそのためのチャレンジが、すごく大きな修行の道と考えることができます。自分たちがどんな仏になりたいのか、どんな力を得るのか、ということなのです」

誰もが仏になれるという大乗仏教の考えは、社会課題を解決するために私たちがどうすればよいかと考えるとき、実はとてもしっくりくるものでした。誰ひとり取り残さないというSDGsの目標とも、合致しています。

祈りを通じて子どもたちの未来を築く

お供えがなくなったら「おてらおやつクラブ」の活動は続けられません。そのためにもお供えが集まるよう、お寺をしっかりと守り、信仰を継承していくことが大切だと松島さんは言います。

そうした松島さんの想いは、人々にも届いています。お供えが余って困っていると悩む前よりも、ずっとお供えの量が増えたのです。しかも、レトルト食品や缶詰など日持ちのするものや日用品など、必要とされるものを考えて持ってきてくださるとか。今は届ける先があるため、いくらお供えがあっても困りません。活動を知った各地の人たちから、もよりのお寺を紹介してほしいと連絡が入ることもあり、新しい「ご縁」にもつながっています。

「お供えをたくさんいただくようになって、プレッシャーはあります。しっかり届けてよ、という人々の想いが詰まっている。だからその想いに、しっかりと応えていかなくてはと身が引き締まります。期待されるほど、できていないことが多いことに気づかされ、仏にすがりたくなる。でもそこで諦めず、人々を救済するほうへ戻らなくてはと思わされます」

ユニークな人生を送りたくてお坊さんになった松島さん。宗教者としての修行はまだまだ足りないと言います。けれども活動を通じて「信仰が確かなものになっているという実感がある」とのこと。「祈りの力を、小さな子どもたちの未来へとつなげていきたい」。それが松島さんの願いです。

取材・文:小泉淳子

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小泉 淳子
小泉 淳子(こいずみ あつこ) 編集者・ライター

ロンドンの大学で国際関係を学んだ後、ニュース週刊誌の編集者に。世界の中の日本や日本の中の世界を報じるなかで、多面的な視点で考える大切さを学ぶ。その後、書籍やライフスタイル誌などの編集に携わる。関わってきたジャンルは教育からデザイン、エンタテインメントと様々ですが、光の当たらないものに光を当てていきたいと考えています。Think the Earthの書籍『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』にもライターとして少しだけ執筆しています。

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