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地球リポート

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2024.09.22 | 小泉 淳子

海洋ごみが押し寄せる対馬で考える 「あおいほしのあおいうみ」を守るためにできること(後編)


漂着ごみに関する学びと海遊びを組み合わせたスタディツアーを運営する対馬CAPPA代表理事の上野芳喜さん。シーカヤックの上では満面の笑みがこぼれる

日本でいちばん海のごみが集まる島。プラスチックごみから流木まで、毎年3万〜4万立方メートルもの海洋ごみが流れ着く長崎県対馬には、今そんな呼び名がついています。本記事の前編では、私たちの生活を支えるプラスチックが海洋ごみとなって、海の環境に大きな影響を及ぼしている実態を紹介しました。

対馬市役所の前田剛さん、対馬グリーン・ブルーツーリズム協会の川口幹子さんに話を聞き、漂着ごみ問題の解決が一筋縄ではいかないことも学びました。とはいえ、対馬の人たちが手をこまねいているわけではありません。変わりゆく自然環境に胸を痛め、課題解決のアクションを起こしている人たちとの出会いは、勇気と希望を与えてくれるものでした。
後編ではそんな素晴らしい出会いをお伝えしたいと思います。

手付かずの自然とごみの山のギャップ


対馬CAPPAの上野さん。以前は美しい海だけを見て帰ってほしいと思っていたが、啓発が大事だと環境問題に力を入れるように

漂着ごみの問題を知ってもらおうと、学びに力を入れているのが一般社団法人対馬CAPPAです。浅茅湾に面した美津島町にある対馬CAPPAのベースを訪ねました。

代表理事の上野芳喜さんは対馬育ち。一度島外に出たものの、30年ほど前に対馬に戻り、シーカヤックの楽しさを知ったと言います。2003年にシーカヤックのツアーを企画・運営する対馬エコツアーを設立。複雑な入江に囲まれた浅茅湾は風の影響を受けにくく波が穏やかで、初心者でも安心してシーカヤックを楽しむことができるとあって人気の場所です。ひとたびオールで漕ぎ出せば、青い海と緑の山々の絶景を堪能できます。

陸に上がって古城の金田城を案内したり、たどり着いた無人島で郷土料理ろくべえのランチをふるまったり。海の楽しさと対馬の魅力を伝えることに力を注いでいた上野さんは、当初ツアーの参加者に漂着ごみは見せたくなかったのだとか。対馬自慢の美しい景色だけを見て帰って欲しい。そう考えていました。

問題意識を共有することの大切さ

でも、10 年ほど前から漂着ごみを意識するようになりました。自分でガイダンスを考え、ちょっとごみを拾いましょうかとツアー客に声をかけると、多くの人が大量にごみを拾ってくれたのです。それならば、もっときちんと対馬から発信すべきだと考えました。対馬市が主催する日韓交流イベントに参加し、若い人たちが問題意識を共有する大切さに触れたことにも背中を押されました。

本格的に環境問題に力を入れようと、2017年に一般社団法人対馬CAPPAを設立。企業や学校向けにシーカヤック体験と環境問題の学びを組み合わせたスタディツアーを行っているほか、市からの委託を受け、海洋ごみのモニタリング調査や島内外のボランティアによる海岸清掃やワークショップなどを実施しています。


環境スタディツアーを体験した対馬高校国際文化交流科の生徒たち。ペットボトルを回収して、どこから流れて来たものか調査した(写真提供:対馬CAPPA)

上野さんが手にしているのは対馬の位置を示すときに使う逆さ地図

私たちもスタディツアーに参加することにしました。まず上野さんが取り出したのが逆さ地図。普段見慣れている日本地図の上下を逆にして眺めてみると、対馬が九州と大陸の間に位置することがよく分かります。韓国・釜山までの直線距離はわずか50キロ。対馬が古代から日本と大陸を結ぶ交易・交流の拠点として重要な役割を果たしてきたこと、海の資源が豊かでたくさんの魚種が取れること、渡り鳥の経由地としても知られていて珍しい鳥の観察を楽しめることなどを説明してくれました。

7世紀初頭に中国に派遣された遣隋使が対馬を通って海を渡ったことを知ると、対馬が一気に身近に感じられました。対馬の歴史や文化を知ることが、漂着ごみ問題を自分ごととして考える第一歩になるのです。

続いて漂着ごみに関するレクチャーが行われました。なぜ対馬に漂着ごみが集まるのか、そして回収がいかに難しいか。1年間に集まる量から漂着ごみの種類まで、数字を使って丁寧な説明がなされます。

「対馬の現状を知らない人は、極端なことを言えば、小さなビニール袋にごみを集めようという気でやってきます。ところが実際に海岸を見てもらうと、大変なことになっているとびっくりする。教室の机の上で学ぶだけでは実感が持てない。現地を見て自分が立っている美しい風景が汚されていることが分かって、ようやくみんな自分ごとになるんです。自分の部屋が汚れていたらちゃんと片付けたくなりますよね」

レクチャーが終わったらいよいよ、シーカヤックで浅茅湾に繰り出します。遣隋使や防人が見たのとほぼ変わらない景色を見られるとは、なんて贅沢なのでしょう。


無人島に着いたらひと休み。無人島にも海洋ごみは流れ着いている。お茶を飲み、ごみを拾って帰路につく

小さな島の自治体が困っている

「大事なのは心に届けること。浅茅湾の手付かずの原風景と大量の漂着ごみ。このギャップが心のどこかに残っていることが大事なんです。心に届かないと解決には向かわない。それには対馬の素晴らしい歴史と文化に触れながら、実際に漂着ごみを体験してもらうことが欠かせません。心に届けることができた人たちの中には、毎年スタディツアーに参加してくれる人もいますよ」

「漂着ごみは回収するだけでは解決には結びつきません。リサイクルすればいいというものもでもない。まずはごみを出さないようにしないと。そのためには第一線でやっている僕らが声を上げたり、スタディツアーに参加した人たちが地元に戻って声を上げていってほしいと思います。この小さい島の自治体が困っているのだから、みんなで考えましょうということを伝えていきたい」


「漂着物のトランクミュージアム」は、一般社団法人JEANが手がける移動式の博物館。対馬版の作成はJEANと島の小中学生が一緒に制作したもので、講演やイベントでの展示に大活躍している

上野さんや川口さんの悩みは、現場のガイドが足りないことです。ガイドだけでは食べていくことができないため、退職した高齢者がほとんど。環境ツアーを観光産業として成立できるようにして、手付かずの原風景とマイクロプラスチック問題の両方のストーリーを語る人を育てることが目下の課題だといいます。「ぼくももう歳だからね、疲れちゃうよ」と上野さんは笑う。「ぼくらが対馬で頑張っていることを面白いと思ってくれる人が増えてくれるといいね。シーカヤックに乗りながらごみの調査をしてるなんて面白いじゃんって」

磯焼けを食べて解決!そう介プロジェクト

次にご紹介したいのが、丸徳水産の犬束ゆかりさんです。夫の徳弘さんや息子さんたちとファミリーで丸徳水産を営み、魚介の養殖や加工、飲食事業を手掛けている犬束さんは、川口さんいわく「課題解決の連鎖を作った人」です。

ご家族が共有しているのは、愛する対馬の海から新しい付加価値を生み出し、持続可能な漁業の循環を実現したいという思い。中でも犬束さんが力を入れてきたのが磯焼け対策です。


犬束ゆかりさんが切り盛りする食事処・肴やえんの前で。居心地のいい店は島の人たちの憩いの場となっている

磯焼けとは、海藻の群落である藻場が衰退したり、消失したりして、海底が砂漠のような状態になっていることを指します。藻場は魚介類の産卵場所や小魚の住処になっているほか、海藻が二酸化炭素を吸収するなど、海の環境を保つ役割を果たしています。藻場がなくなるとヒジキやワカメなどの海藻類が収穫できなくなるうえ、藻場を住処にしている魚が減少して漁業に影響を及ぼします。対馬沿岸では1980年頃から藻場の衰退が報告されるようになりました。

「私たちが子どもの頃は海の資源が本当に豊富で、海岸にはサザエやウナギがいたんですよ。夏になると兄と一緒にウナギ釣りをしたものです。岩をのぞけばアワビが現れる。そんな時代だったのが、30歳後半になったころにはどんどん海が枯れていくのが分かりました。海に行っても何も取るものがないから足が遠のいて。夫から砂漠化が進行しているという話を聞いて胸が痛くなる日々でした」


対馬沿岸では藻場が消失し海底が砂漠化する磯焼けが広がっている(写真提供:対馬市水産課)

磯焼けは複数の要因が絡み合って起こるとされています。地球温暖化の影響で海藻が生育できる温度を超えて海水の温度が上昇し、海藻が衰弱してしまうこともそのひとつ。また、イスズミやアイゴ、ガンガゼ(ウニの一種)など海藻を食べる生物(植食性魚類と呼ばれます)による被害も深刻です。高い水温によってこうした魚の活動が一年を通して活発化。海藻を食い荒らしています。

犬束さんが磯焼け問題に取り組むようになったのは8年ほど前のこと。「もったいない」がきっかけです。イスズミやアイゴなど海藻を食べる魚は駆除された後に焼却処分される(当時)という話を聞き、燃やすなんてもったいない! 利用できないかと考えたのです。強烈な磯臭さを放つイスズミやアイゴですが、なんとか美味しく食べられないかと試行錯誤が始まります。

「食べる磯焼け対策」が本格化したのは2019年。イスズミの有効活用を検討していた対馬市役所と一般社団法人MITから依頼を受け、メニュー開発が加速しました。そう介プロジェクトと名付け、何度も試作をして長崎県庁の水産課にサンプルを持っていたそう。こうして生まれたのが、イスズミを使ったメンチカツとアイゴのフライです。水抜きの下処理を丁寧に行い、すり身にして野菜を加えることで臭みを取ることに成功。厄介ものだった魚が、食材として生まれ変わりました。


イスズミは丁寧に血抜きをしてメンチカツに。タマネギなど野菜を加えて食感をアップ

試行錯誤の末に完成したイスズミのメンチカツ(左)とアイゴのフライ(右)。今では肴やえんの人気メニューだ

「大袈裟ではなく、当時は1日の9割はイスズミのことを考えていた。食を預かる者としての責任があるから本当に必死でした」と犬束さん。その甲斐あって、イスズミのメンチカツは2019年の「第7回Fish-1グランプリ 国産魚ファストフィッシュ商品コンテスト部門」でグラプリを受賞。加工技術に加え、新しい水産資源の開発や環境への貢献などが評価されました。

「メンチカツが認知されたことで、何より漁協の組合長さんたちの意識が変わりました。風向きが変わった瞬間を忘れることができません。以前の彼らは磯焼けにもイスズミにも無関心だったと思います。あんた一人頑張って何ができる、Fish-1グランプリなんて取れるはずがない、って。でも、これまで捨てていたイスズミやアイゴが食材になることが分かり、今では捕獲した漁師さんたちがしっかり鮮度を維持して持ち帰ってくれるようになりました。魚が取れなくなったと嘆くのではなく、取れる魚に付加価値を付けて、少しでも漁村にお金が落ちる仕組みを作りたいと思っています」

そう介プロジェクトの商品は今では島の学校給食にも取り入れられ、子どもたちの間で人気だそう。

「食べる人の意識が変わるんですよ。イスズミやアイゴがどんどんみんなを良い方向に導いてくれていると感じます。海の環境はすぐには良くならないかもしれない。でも私たちがイスズミを食べることで、少しでも海藻の被害が減るのは良いことだし、フードマイレージを考えると地場産の食べ物を食べるのは大事なことではないでしょうか」

見せる漁業という新しい枠組み

穏やかな口調で語る犬束さんですが、思いついたことは実行するバイタリティに満ち満ちています。イスズミの加工だけに止まりません。磯焼けで困っているというのなら、磯焼けと観光を結びつけて商売にすればいい。そう考えた犬束さんは2021年、地元の漁業者の案内で養殖場を見学したり磯焼けの実態を観察したりする海上ツアー「海遊記」を始めました。漁業は取る仕事だという固定観念を覆し、見せる漁業という新しい枠組みを作ったと言えるでしょう。


丸徳水産が実施する海上ツアー、海遊記では漁業者の案内で磯焼けの現場を観察する(写真提供:対馬グリーン・ブルーツーリズム協会)

海遊記を任されている三男の犬束祐徳さん。藻場復活をめざし藻類の養殖にも取り組む

犬束さんの次なる目標は、女性の会を立ち上げること。対馬ではまだまだ女性に何ができる? という風潮が残っていると言います。それを変えていきたいと犬束さん。対馬の女性のトップランナー約20人に集まってもらい、まずは「はじめまして」から。「職種はさまざまです。繋がってお互いのアクションを知ること。それが刺激にもなって問題が解決できるのではないかっていつも思うんです」

実際にたくさんの人と繋がって、磯焼け対策を実現した犬束さんをロールモデルに、課題解決の連鎖を作る女性が現れるのが楽しみです。

山を守ることが海を守ることに繋がる

犬束さんが繋がりをもつことで刺激を受けた人物が、一般社団法人daidaiの齊藤ももこさんです。

齊藤さんが代表理事を務めるdaidaiは、「獣害から獣財へ」をビジョンに掲げ、増えすぎたイノシシやシカが山や畑を荒らす被害の対策に取り組んでいます。海の環境を守る活動ではなく山を守る活動? 対馬CAPPAや丸徳水産の取り組みとは向き合う方向が異なるようにも思えますが、山の豊かさが海に恩恵をもたらしているという自然の大原則を齊藤さんは気付かせてくれました。


一般社団法人daidaiの齊藤ももこさん。対馬南部の厳原にあるギャラリーdaidaiにて

daidaiの店内では革製品を販売しているほか工房も併設されている

現在日本各地でシカやイノシシによる森林や農作物の被害が問題となっています。対馬も例外ではなく、人口2万7,000人に対しシカは4万7,000頭生息しているとされています(イノシシは個体数を調べる方法が確立されておらず生息数は不明)。

大学の獣医学科を卒業し獣医師の資格をもっている齊藤さんですが、実は飼育されている動物には興味を持てなかったと言います。「では何がしたいかを考えたときに、人間の欲で壊れてしまった生態系を改善し、それを人間も活用する。そんな架け橋になるような仕事がしたいと思ったんです」

対馬と関わるようになったのは、対馬野生生物保護センターのインターンに参加したのがきっかけ。島の人に話を聞くと、シカやイノシシに畑が荒らされて丹精込めて育てた野菜が無惨な姿になっていると。野生動物の保護というのは、人々の暮らしが成り立って初めて成立するということを痛感しました。まずは喫緊の課題であるイノシシの被害対策をしないことには、ツシマヤマネコの保護にはたどり着けません。


山に入るとイノシシやシカが届く範囲から下の草木はすべて食い尽くされており、被害の深刻さがよく分かる

数年後、齊藤さんは島おこし協働隊の一員として再び対馬にやってきました。

「すごく衝撃だったのは、飛行機の中から見たらとても綺麗な森なのに、一歩山に踏み込むと目の高さより低いところの草木がほぼないという状況でした。草原性で葉や樹皮が大好物のシカが食い尽くしていたのです」

シカが増殖したのは、昭和中期に林業の発展のために拡大造林が行われたことに加え、対馬のシカの個体数が減少しているという調査結果から県の天然記念物に指定されて捕獲が禁止されたことが要因です(その後天然記念物指定は解除)。シカにとって最高の生育環境ができたわけです。夜になると耕作放棄地に120頭ものシカの群れがいることも。同時期に、ペットで飼われていたイノシシが野生化していきました。一頭のシカは1日に3〜5キロもの草を食べるそうです。4万7000頭が毎日この量を食べ、対馬の豊かな森林は失われていきました。

「どのような対策をしているのか知りたく、イノシシの捕獲の現場に連れて行ってもらいました。私たちが近づくと、イノシシが檻に体当たりをして、イノシシの血が飛んできたんですよ。大切なお米を食べられないよう農家さんが必死だったのと同様、山に餌がなくなったイノシシも生きていくために必死だったんですよね。私たちが美味しいお米を食べている裏側でこういう攻防があったことを知らず、大きな衝撃を受けました」

駆除された野生生物は食肉にはならず、9割は埋められていました。シカやイノシシの資源活用を通じて被害対策を行う方法はないだろうかと考えた齊藤さんは、2016年にdaidaiを設立。掲げるビジョンは「獣害から獣財へ」。イノシシやシカを肉や革の資源に変え、野生動物たちの命をポジティブに循環させることをめざしています。

捕獲をポジティブに捉える

「第一に力を入れているのが被害対策です。捕獲は私たちの暮らしを守り、山を守る仕事なのに、野蛮だとされる風潮があります。生き物を殺すという側面にフォーカスすると捕獲は進みません。山の維持や管理のために捕獲は必要であり、それが資源に繋がっているというストーリーをきちんと伝えることで、その価値を感じてもらえると信じて取り組んでいます」


野生動物の捕獲に抵抗のある人が多かったが、自分たちの集落は自分たちで守ろうと訴え続けているうちに人々の意識が変わってきたという(写真提供: daidai)

また捕獲したイノシシやシカを資源として活用するため、皮を使って財布や名刺入れなどの革製品を製造しています。ひとつひとつ丁寧に手作りされた色鮮やかな商品は、今では島の名産になっており、島の子どもたちには成人のお祝いにdaidaiの印鑑ケースが贈られています。


捕獲したイノシシやシカの皮を利用したdaidaiの革製品。廃棄されていたものから新しい価値を生んだ成功例だ

獣の捕獲が資源になるという価値観をつくる

今年6月には、捕獲したイノシシを食肉加工する工場と、加工した肉を販売する「対馬もみじぼたん」をオープンしました。捕獲から肉の販売までをdaidaiが一貫して手掛ける体制が整いました。衛生管理も徹底しています。


今年6月にオープンした加工工場兼ショップ。予約すれば見学やジビエ料理の体験も可能だ(写真提供: daidai)
工場でさばいた肉をひき肉やバラ肉、ソーセージなどにして販売している(写真提供:daidai)

食肉としてのイノシシ肉やシカ肉の価値を伝えていきたいと、齊藤さんは考えています。シカの肉は100グラムで100kcal以下と低カロリーで高タンパク。イノシシやシカの肉は現代の成人が不足している栄養素を補えるという調査もあるそうです。

「家畜生産に伴う温室効果ガスの排出を考えると、イノシシやシカを食べることで環境負荷を軽減できますし、農業や林業の被害を防ぐこともできます。いいことずくめのお肉なんです」

工場のある場所は、海沿いにある丸徳水産の事務所の隣です。犬束さんと齊藤さんが出会って思いを共有したことで、工場建設が一気に現実になりました。「隣に空き地があるからおいでよ、って犬束さんが言ってくださって、二つ返事で行きます!って」

「犬束さんとはよくお互いの活動の話をしています。海と山は繋がっているから、陸のことを後回しにしてはダメなんです。海のためにも山が良くならないといけない。山は草木が生えることで地質が固定されます。雨が降れば土や根っこがしっかり水分を吸って、葉っぱや土の栄養分が溶け込んだ水がゆっくりと海に流れていきます。でも、森のおかげで保たれていた機能がシカやイノシシの影響で失われてしまいました。山肌がむき出しになってしまった今では、雨が降ると大量の土砂が海に流れていきます」

森の栄養分が海に流れ、その栄養分をプランクトンや海藻が食べ、植物連鎖が繋がることで海の豊かさが守られています。海を守るためには、森を守ることも一緒に考えなくてはいけないことが分かります。

「海の人たちと山の人たちが繋がっていき、少しずつ輪が広がり、対馬を超えて世界中に広がっていったら、もっと素敵な循環が生まれていくと思います」

今回出会った人たちに共通していたのは、漂着ごみや磯焼け、獣害という深刻な環境課題を前に、できることはあると考えるポジティブな姿勢と、周りを巻き込んでいく行動力でした。私たち一人ひとりができることはあると考えて行動すれば、きっと未来は変わる。そんな希望を感じさせてくれました。

(文:小泉淳子  写真:平川雄一朗)

Think the Earthが刊行予定のビジュアルブック『あおいほしのあおいうみ The blue oceans of a blue planet』では、本記事で紹介した対馬の海を守るアクションのほか、宇宙誕生から食卓にのぼる海の幸まで、海にまつわるトピックを素晴らしいイラストとともに伝えています。ぜひ手に取ってみてください。

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小泉 淳子
小泉 淳子(こいずみ あつこ) 編集者・ライター

出版社でニュース週刊誌や書籍、英文ウェブメディアの編集に携わり、2024年よりフリーランスに。Think the Earth発行の『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』『あおいほしのあおいうみ』に執筆者として参加。国際政治から環境、テクノロジー、カルチャーまで幅広く携わった経験を生かして、多面的な視点を伝えていきたいと考えている。

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