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2022.05.19 | 岩井 光子

NY州議会がファッション業界を変えるか サステナビリティ法案がめざす中身とは

NYファッション・ウイークより Creative commons, some rights reserved, photo by Art comments

服の生産は原料の栽培に始まり、紡績、織り、染め、生地の裁断、縫製、卸と、各工程を多国籍な作り手が支えています。大手アパレルブランドが複雑多岐に渡る自社製品の生産実態を把握しきれず、ある工程の作業者たちが劣悪な環境下で働いていたことを「知らなかった」と弁明したケースも相次いでいます。サプライチェーンが複雑であるがゆえに規制の緩かったグローバルブランドの生産方法が今、米ニューヨーク州で審議中の法案によって劇的に変わる可能性があります。

1月、同州上院議員のアレッサンドラ・ビアッジと下院議員のアンナ・R・ケレスが州の消費者安全委に“ファッション法”(ファッションの持続可能性と社会的説明責任に関する法)を提出。法案は現在、州議会で審議中です。まもなく実施される投票で承認されれば、ニューヨーク州はグローバルブランドに一律に環境や社会に対する法的責任を問う全米最初の州となります。

“ファッション法”を提出したニューヨーク州のアレッサンドラ・ビアッジ上院議員。法案はデザイナーのステラ・マッカートニーや俳優のジェーン・フォンダ、サステナブル・ファッションの推進団体が支援する Creative commons, some rights reserved, photo by NY Senate Photo

“ファッション法”の規制を受けるのは、年商約1億ドル(約129億円)を超える大手アパレルブランドのメーカーや小売。同法は各企業にサプライチェーンの下請け先の現状を調査・把握した上で環境や社会への負荷が高い部分を重点的に50%開示(マッピング)すること、また、原料別の年間生産量を明らかにし、製品製造に伴う現在のエネルギーや水の消費量、CO2排出量と削減目標、労働者の賃金の中央値とその地区の最低賃金との比較、化学物質などの管理システムも細かくリポートに記し、オンライン上でも公開することを義務づけています。特に環境や社会への負荷の高い工程については具体的な改善策を講じることも求めるなど、サプライチェーン全容把握と是正を促す画期的な法律です。

今後法案が成立したら、対象となる各企業にはサプライチェーンのマッピングと必要項目の情報開示に12カ月、現状の環境や社会的リスクに対する改善目標の設定・公表に18カ月の猶予が与えられ、コンプライアンス違反とみなされた場合には年間売上高の2%の罰金が課されます(罰金は、環境保全プロジェクトを支援する基金に寄付されるそうです)。

見えづらかったサプライチェーンの全容がオンラインで閲覧できるようになれば、消費者が服を選ぶ際にも、コストやブランド名だけでなく、その製造背景という新たな基準が加わる Creative commons, some rights reserved, photo by Solidarity Center

法案を支援するステラ・マッカートニーは自身のインスタで、「この法は、ファッションデザイナーとして、地球を愛するものとして、人間としての私の義務。私は何年もの間、政府がファッション業界を規制するべきで、サステナブルなイノベーションを法制化し、鼓舞しなければと言い続けてきた」と書いている

現在、大手アパレルブランドの環境や社会的説明責任に対するスタンスはさまざまで、グッチ、サンローランなどの名門ブランドを傘下に置くフランスのケリングのように、環境負荷を損益計算で表す指標「EP&L」を考案した非常に意欲的な環境先進企業もあれば、利益優先で人件費の安い途上国に生産拠点を分散し、環境や社会に負荷の高い“大量生産方式”を続けるブランドもあります。旧態依然のまま経済活動を続ける企業も、同法の施行で負荷のツケが製品コストに跳ね返るようになれば、生産方式や企業姿勢を根本的に見直さざるを得ません。

ステラ・マッカートニーが指摘するように、当初は反発が強かったものの、今では環境対策が当たり前となった自動車業界のように、ファッション業界も包括的な変化に向かう大きな一歩となるか。まずは法案の行方が気になります。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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